National Archaeological Museum、Daniel Knorr | documenta 14 Athens

5年に1度の国際芸術祭ドクメンタのアテネ会場を見てきました。いくつか作品を紹介します。正直、ドクメンタの展示はあっさりしたものです。それよりも考古学博物館にある様々な収蔵品に熱をあげてしまい、あっという間に2~3時間が過ぎていたことを告白します。ここでは、その(あっさり見た)作品について紹介します。

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documenta 14
Athens

Venue Number [31]
Daniel Knorr


Daniel Knorrの作品は、ミュージアムの入口から地下(カフェやグッズショップのある)に抜ける階段を降り、中庭を楽しむと見つけることができます。


Athens Conservative (以下Odeion) で発表した作品とつながりのある展示になっていますが、この場所、アテネ国立考古学博物館で展示されるとまた面白みが増すような気がします。

Daniel Knorrは、ギリシア市内で拾ってきた様々なもの(おそらくごみも含みますが)、を万力を使って本に閉じ込め、アートブックとして展示/販売しています。Odeionでは本を手に取ることもできますが、アテネ国立考古学博物館ではアクリルケースの中にあるので触ることはできません。博物館で展示されている他の遺物と同様に。

Odeionで触っているとわかるのですが、本には、ものの痕跡が様々な形で刻まれます。色(空き缶であれば缶に印刷された塗料など)、形、もしかすると匂いも刻まれているかもしれません。販売する際、本はビニルで密封されます。ビニルを破り、本を開き、読むことで、本に閉じ込められた遺物から往時の生活を想像することができます。何年も、何十年も、それこそ何千年も後に見つけられたら、研究の対象となるかもしれません。


Daniel Knorrが考古学博物館で展示するにあたって最初に提出した案は没になったそうです。どんな案かというと、収蔵作品である「Boy with a Dog」を土に埋めるというものです。

Daniel Knorrが埋めようとしたBoy with a Dog

なぜそういう作品を提案したのか。話は1940年にさかのぼります。当時のアテネにナチスが侵攻してきた際、考古学者たちは収蔵品を、彼らの歴史を、彼らの文化を守ろうとしました。土から掘り出して保管し展示していたものを、再度埋めるということをしました。その事実になぞらえて、作品を提案したそうですが、そりゃまあ難しいですよね…。

さてナチス侵攻の事実を知って気付いたのですが、現在、考古学博物館に展示されている様々な(私のテンションを高めてしかたのない)青銅像や陶器などは、2度掘り返されていることになります。


考古学という学問は、人類の痕跡を研究して人類の活動とその変化を研究する学問です。人類は戦争という痕跡も残しています。アテネ国立考古学博物館では、その痕跡が最初に埋められた時代に関しての研究/展示が主な内容でしたが、Daniel Knorrの作品がその場所にあることで、それ以外の痕跡についても目を向けることができました。


Daniel Knorrはアイロニーという手段を用いて(今回の作品であれば本に埋めることを通じて道に落ちているものに(考古学的な)価値を持たせて)、現実やひとつの対象が持つ多義性の力を提示します。ざっくり言うと、エネルギッシュだなあこいつの複雑さは、とか、矛盾だらけだがそれほどまでに様々な意味を持ってしまうのが本質なのかこいつは、とかそういう前向きな複雑さ、と私は理解してます。(ざっくり書きすぎてすいません汗)

今生きている時代が考古学の対象となることは用意に想像できます。想像する時間軸を広く取ることで、Daniel Knorrの作品も「Boy with a Dog」も同じだと考えることができ…ます。

Archaeology|考古学、はもともとギリシア語ἀρχαιολογίαからきていて、ἀρχαῖοςの部分が「先史の」だったり「古くから語られる」という意味を持ちます。考古学を通じて、自分たちが何を語ることができるのか、語られる何を痕跡として残すことができるのか、想像させてくれる展示した。