「MAMプロジェクト014:田口行弘」を見てきました。



女装の私が、森美術館で「フレンチウィンドウ」と同時に開催されていた「MAMプロジェクト014:田口行弘」を見てきました。








会場に入ると、左側の壁はむき出しのベニヤ板。「MOMENT」とくりぬかれた板の向こうにはパイプ椅子が重ねられています。正面のディスプレイには映像が流れ、すぐ右にはボロボロに折られた板が重ねられ、白い正面の壁には緑色の養生テープで文字が書かれています。映像に目を移すと、六本木ヒルズのカフェやビル内や森美術館で撮影されたコマ撮りのアニメの映像が。(以降ネタバレです)何枚もの白い板が蠢いています。板はカフェの椅子を動かし、珈琲を飲んでいる客を乗せて滑ります。周囲を巻き込み、板は進みます。エレベーター、展示会場、廊下、そしてまた六本木ヒルズ。ん。”また六本木ヒルズ”…?。作品は終わり無く繰り返される映像でした。コマ撮りだからできたのでしょう。(ネタバレ終了)








『面白いなあ』と眺めていると、「これで完成ですか?」とスタッフに声をかけている人がいました。田口さんは「パフォーマティブ・インスタレーション」という作品で注目を浴びています。「パフォーマティブ・インスタレーション」とはドローイング、パフォーマンス、アニメーション、インスタレーションがミックスされたもの。アニメーションの撮影そのものがパフォーマンスです。展示(同時開催されるイベントや会場そのもの)は撮影を兼ねたインスタレーションです。「これで完成ですか?」とスタッフに質問をしたその人は、現実と作品の境目がわからなくなったのです。自分がいる空間は、時間は、作品そのものかもしれないし作品じゃないかもしれない。どこかに隠されたカメラから撮影されたこの瞬間が、後で作品の一部になるかもしれない。








設営途中で片付けられていないかの様に見えるベニヤ板の山や養生テープの文字は、展示に「完成」という境目を越えた作品が無いことを示していました。私は、私が居たあの日の展示会場が作品になって、終わりの無いコマ撮りアニメの一部になっているんじゃないかと、思っています。








田口さんの作品の前に立つと、今私が立っている場所や時間がフィクション/作り物であるかのように錯覚します。でもそれは錯覚です。フィクションではありません。ビルに突っ込む飛行機や、人を殺す程の急降下を見せる株価のグラフや、家を飲み込む津波や、煙を吐き出す原子力発電所は、どれもこれも映画やドラマやアニメやゲームや小説に描かれたことのあるフィクションです。でもそれは事実です。フィクションではありません。フィクションだと思い込みたくなるような、現実離れした出来事がたて続けに起こっています。気づかぬストレスに苛まれ、狂ってしまいそうになる人もいるでしょう。そんな”今”、現実に極めて近いフィクションの田口さんの作品を見ることができて、良かった。肩の力が少し抜けました。








「MAMプロジェクト014:田口行弘」は8月28日まで開催されています。ぜひ、ご覧になってください。作品は制作途中かもしれません。