世界の終わりの魔法使い




世界の終わりの魔法使い (九龍COMICS)

世界の終わりの魔法使い (九龍COMICS)










これは、反抗的な男の子の話です。反抗・対立の対義語は降参・従属。この漫画の世界は「魔法」に打ち勝った「科学」が「魔法」に従属してしまった世界を舞台に描かれます。





(あらすじ)


1000年前の魔法大戦で魔法星団と戦った「発達した科学団」は最新鋭の科学を集結させこれに抗った。魔法星団側の精神的支柱であり、何万人もの人間を殺した魔法使い「魔王」を最新鋭の刑務所に封印。それを見守るかのようにある村は、1000年たった今、魔王の呪いでみな魔法使いになっていた。その中で、たった一人、魔法が使えない少年「ムギ」。魔法なんて大嫌いと科学で空を飛ぼうとするが…





「魔法を敵と戦った人間が 今は魔法をつかってるなんて なしくずしというかなんというか。」という老人の言葉に、誰一人として違和感を感じない村。あまり笑って読めませんね。身の回りで、似たような事が起こっていそうで。世界に見放された世界はだらしない方向に流れていく。同感です。おっきな時代の流れ、歴史には、わたしたちちっぽけな存在は見向きもされない。それに抗うかのように、本が記されている気がする。本を読むことは、流れに降参し従属することに反抗し、そうして、今自分のいる世界を劣化させないように、必死に抵抗することであるような気がします。





ちぃっぽけな少年が、ただ一人、おいてけぼりにされた科学にしがみついている。この姿を「かわいいねえ」で捉えることは、時代に諦めているような気がする。西島大介という作者はPUNKな人で、原稿が紛失してしまったことを出版社に訴えた事で、一時期名前が知られています。河出書房で「アトモスフィア」や「凹村戦争」などパンクな作品を書いている人。こんな作者が「かわいいねえ」で終わる漫画を書くはずが無い。





あとがきで作者は「『どうでもいいさ』という言葉は、すでにできあがった社会に対するある種の反抗の言葉に聞こえます。」と、登場人物である魔王(魔女)の名前について語っています。黄昏を迎え続けている社会に生きている危機感は、いつの時代にもあって、必要不可欠な感覚なんだろう。こんな鋭い感覚の漫画には、西島大介の画風がほんとによく合います。中和してくれる。